同じ建物を壊す工事に、4,901万円と1億5,452万円。役所の入札は参加した全社の金額が公表されるので、相見積の実態をそのまま観察できます。工事の種類別に開きを集計しました。
解体工事で「見積を何社から取るべきか」という話をよく聞きます。 1社でいいという人もいれば、3社は取れという人もいる。どちらが正しいのでしょうか。
これを実際の数字で確かめられるデータがあります。 役所が発注する工事の入札結果には、落札した会社だけでなく、 参加した全社がいくらで出したかが公表されているからです。 同じ工事・同じ条件で、複数の会社が出した金額が並んでいる—— 相見積をそのまま観察できる、めったにないデータです。
京都府内の2,652件(3社以上が参加した工事)を集計しました。
いちばん安い会社と、いちばん高い会社の開きを工事の種類別に出したのがこの表です。
| 工事の種類 | 件数 | 開きの中央値 | 10%以上 開いた割合 |
|---|---|---|---|
| 解体・撤去 | 45件 | 6.5% | 38% |
| 新築・増築 | 28件 | 7.0% | 29% |
| 給排水・トイレ | 178件 | 4.4% | 33% |
| 空調・換気 | 82件 | 4.2% | 28% |
| 電気・照明 | 99件 | 4.0% | 33% |
| 防水・屋根・外壁・塗装 | 53件 | 4.1% | 21% |
| 内装・改修(建築) | 621件 | 0.2% | 21% |
| 道路・河川などの土木 | 578件 | 0.1% | 18% |
読み取れること:解体は、会社によって金額がいちばんばらつく工事です。 45件のうち18件(38%)で1割以上、3件では2倍以上の開きがありました。 一方で道路工事や一般的な建築改修は、開きがほとんどありません。
つまり「相見積を取るべきか」の答えは工事によって違います。 解体・新築・設備(電気・空調・給排水)は取ったほうがいい。
| 工事 | 参加 | いちばん安い | いちばん高い | 開き |
|---|---|---|---|---|
| 東宇治中学校 旧館棟 解体(宇治市) | 11社 | 4,901万円 | 1億5,452万円 | 215% |
| 防火水槽 撤去(久御山町) | 5社 | 455万円 | 935万円 | 105% |
| 余部待機宿舎 解体(京都府・舞鶴) | 7社 | 5,019万円 | 8,140万円 | 62% |
| 向日町競輪場 老朽化施設 解体(4期) | 23社 | 1億3,400万円 | 2億1,031万円 | 57% |
| 旧川端警察署 車倉庫ほか 解体 | 45社 | 2,395万円 | 3,597万円 | 50% |
| 長岡公園 トイレ棟 解体(長岡京市) | 6社 | 800万円 | 1,150万円 | 44% |
| 西小倉中学校 校舎ほか 解体(宇治市) | 6社 | 3億2,508万円 | 4億4,180万円 | 36% |
いちばん上の東宇治中学校を見てください。まったく同じ建物を壊す工事に、 4,901万円で出した会社と1億5,452万円で出した会社が並んでいます。 図面も現場も条件も全部同じで、1億円の差です。
小さい工事でも同じことが起きます。長岡公園のトイレ棟は800万円と1,150万円。 一般のお宅の解体に近い規模ですが、それでも350万円の差がついています。
① 解体は「工事の中身」が会社ごとに違うから。 建物を壊す方法、重機を入れる段取り、廃材を運ぶ距離と処分場、 どこまで手作業でやるか——ここに各社の判断が入ります。 新築のように図面どおり作る工事と違い、やり方の自由度が大きいのです。
② 廃材の処分費が読みにくいから。 解体費用のかなりの部分は、壊した後のガラを運んで捨てる費用です。 処分場との距離、その会社が持っている運搬の手段で金額が変わります。 近くに処分の当てがある会社は安く出せます。
③ その現場に慣れているかどうか。 同じ規模でも、前面道路が狭い・隣家が近い・アスベストがあるといった条件で手間が変わります。 読み違えを恐れる会社は高めに、経験がある会社は実費で出します。
裏を返すと、極端に安い1社を鵜呑みにするのも危険だということです。 処分費を甘く見ていたり、途中で追加を請求されることがあります。 3社取って、まん中を選ぶ——このデータを見るかぎり、それが妥当な判断に見えます。
① これは公共工事のデータです。 役所の入札には「これより安いと失格」という下限(最低制限価格)があり、 多くの会社がその線のすぐ上に集まります。 そのため全2,652件をまとめた開きは中央値0.5%と、実態より小さく出ます。 下限のない民間の相見積では、開きはこれより大きくなるのが普通です。 この記事で工事の種類別に見たのは、その制約の中でも差が出る分野と出ない分野がはっきり分かれたからです。
② 「開きが小さい=どこに頼んでも同じ」ではありません。 土木や建築改修で差が出ないのは、上に書いた下限の効果が大きいためです。 民間の工事で同じとは限りません。
③ 一般住宅の解体費用そのものは、このデータからは分かりません。 公共の解体工事は学校・団地・庁舎が中心で、一般のお宅とは規模が違います。 金額の相場ではなく「会社によってどれだけ違うか」だけを読み取ってください。
・3社に声をかける。2社だと、どちらが高いのか判断できません。 3社あれば、極端に高い/安い会社が浮かび上がります。
・同じ条件で頼む。「建物だけ」なのか「ブロック塀・庭木・カーポートも」なのかで金額は変わります。 口頭ではなく、壊すものを紙に書いて全社に同じものを渡してください。
・見積書に何が含まれているかを聞く。特に 廃材の処分費・重機の運搬費・アスベストの調査。 これらが「別途」になっていると、後から乗ります。
・解体後にどうするかを先に決める。更地にするのか、建て替えるのか。 建て替えるなら、解体と新築を同じ会社に頼めるかを聞くと段取りが楽になります。
・市役所に補助制度を聞く。老朽化した空き家の解体に補助を出している市町村があります。 着工前の申請が条件のことが多いので、壊す前に確認してください。